ハードウェアエンジニアの備忘録

電子工学(半導体物性)→応用光学・半導体プロセス→アナログ回路→C/C++→C#/.NETと低レイヤーから順調に(?)キャリアを登ってきているハードウェアエンジニアの備忘録。ブログ開始時点でiOSやサーバーサイドはほぼ素人です。IoTがマイブーム。

【Startup School】スタートアップを始める理由

Stanford Univ.のオンラインコースで面白いものをやっていた。 Startup School: The First 100 Daysというもので、様々なスタートアップの創業者などが自らの体験をもとにトピックについて語っている。中々参考になることも多いので、備忘録を兼ねて、まとめることにした。

スタートアップを始める理由 - Sam Altman、Dustin Moskovitz

youtu.be

講演者の経歴

まず、軽く講演者の経歴からおさらいしよう。

Sam Altman

Sam Altmanは著名なベンチャーキャピタルであるY Combinatorの社長である。1985年ミズーリ州に生まれたSamはスタンフォード大学コンピュータサイエンスを学び、19歳の時にSNSアプリケーションを作るLoopt社を共同創業する。Loopt社は2012年に$43.4Mで買収される。その後、2014年にSamはY Combinatorの社長に指名され現在まで社長を務める。Samは2015年にForbes誌の30歳以下のトップ投資家に選ばれたほか、BusinessWeek誌のBest Young Entrepreneurs in Technologyにも選ばれている。

Samは2014年からスタンフォード大学で教鞭をとっており、例えば2014年の講義はここにまとまっている。

参考:Wikipedia

Dustin Moskovitz

Dustin MoskovitzはFacebook社の共同創業者である。1984年生まれのDustinは若くして純資産が100億ドルを突破している。 経済学をハーバード大学で学んでいたDustinはMark Zuckerbergらルームメイトと2004年Facebookを創業する。2008年にFacebookを去ったDustinはAsana社を創業する。その後、Dustinはエンジェル投資家としての顔も持つようになる。

参考:Wikipedia

二人の講義のまとめ

  • Dustinの講義内容
    • スタートアップ成功の可能性は1%
    • 起業に限らずレイターステージの会社に入る事による金銭的リターンも大きい
    • スタートアップはHARDだ
    • それでもやる理由は「やらずにいられないから」
  • Samの講義内容
    • 第一に価値観、第二に才能、第三にスキルの順番で社員を選ぶ
    • 少数に愛され使われるプロダクトをまずは目指す
    • ユーザーインタビューはトップレベルの質問は避ける。具体的に掘り下げた質問をすること
    • 顧客と話す→ペインポイントの理解→それを表す製品開発→顧客のもとに持っていき顧客が何をするかを見る の繰り返しを早く行うこと

Dustinの講義内容

さて、講義内容はYoutubeに上がっているのでそれを見ればよいのだが、忘れてしまわないように要点をまとめていこうと思う。 まずは、Dustinの講義から見ていこう。

金銭的なリターンと成功確率

創業したスタートアップを成功させると金銭的なリターンは計り知れない。しかし確率は低い。CBInsightsによれば、資金調達のラウンドに応じて、スタートアップの数は 1027(シード)→411(2ndラウンド)→232(3rdラウンド)→90(4thラウンド)→34(5thラウンド)→9(6thラウンド) と減っていくとのことだ。目安としては厳密ではないものの、6thラウンドがユニコーン企業価値10億ドル以上)というイメージらしい。その確率実に1%。成功するには、

  1. イデアが優れていること:ユニーク、競争優位がある、大きな市場を想定している
  2. 実行力があること:ハードワーク、適切な人を引き付ける、競合よりも良い戦略を持つ、
  3. 幸運:困難やコントロールできないこともある

などが必要だ。また、近年になるほど、このラウンドを通過するのが難しくなっているという。これは多くの競合と戦わなくなければなければならない、多くの人がスタートアップを始めている他、ベイエリアではコストが上がっているというのも理由だ。しかしながら、最も大きな理由は現在マーケットにいる大企業のスピードも上がっており先行者利益を活かす方法が知られてきたからだ。

起業家になるか従業員として働くか

起業家として、ペットシッターUBERを創業したケースを考える。創業者で$100Mで会社を売却、株式の希薄化もうまくやり10%の株を売却し、$10Mの現金を手にする。これは非常にラッキーなケースで、スタートアップを途中でやめれば何も手にすることは出来ない。また、売却をしたとしても、investor liquidity preference*の問題があり、多くのケースで何も手にすることができない。

*Investor Liquidity Preference

ベンチャーキャピタルから(VC)の資金調達の際に使われる契約書(term sheet)では主に、(a)調達額、(b)一株の価格、(c)投資前の企業価値、(d)liquidity preference、(e)投票権、(f)希薄化防止条項、(g)登録請求権などが書かれているという。

参考:Startup InnovatorsWikipedia

このliquidity preferenceに関しては売却、IPOなどのイベントの際に投資家を保証するためのもので、最初の投資額や未払いの配当などの支払いを規定するものだ。

例えば、あなたは創業者で$100kの企業価値を持つスタートアップのオーナーで、このスタートアップに対し、

  1. VCが$50kの投資(新株を購入)をしたとする。これで、企業価値は$150kとなり、VCは33%の株を持っていることになる。同時に、$20kの配当を将来支払うことを取り決める。
  2. 会社を第3者に$400kで売れたとする。
  3. VCはまず、$20kの未払い配当を回収する。これで残りは$380kだ。
  4. 次に、VCは最初の投資額である$50kを回収する。これで残りは$330kだ。
  5. さらに、VCは33%の株分である$110kを回収する。これで創業者に残ったお金は$220kだ。

以上をまとめると、$400kでスタートアップを売却できたとしても、66%分の$300kはそのまま創業者に渡るのではなく、VCに最初の投資額や配当金も支払う必要があることが分かる。

参考:Wikipedia


起業するリスクは上記の通りだが、従業員としてレイターステージのスタートアップに入るケースはどうか? $500M-$20Bの企業価値のスタートアップに入り、0.05%の株式を取得できれば、$10Mになる。これが、100人目のFacebookのエンジニアが多くの起業家よりも大きい金銭的なリターンを手にしている訳だ。もちろん、悪い会社を選んでしまい株が無駄になってしまうリスクもあるが、レイターステージであればその会社についてより多くの情報を手に入れることができる。

レイターステージ企業に入ることのインパク

ある程度確立された企業に入ることによるメリットもある。確立された企業であれば、ユーザー数、インフラ、開発チームなど多くのリソースを保有しており、同じことをスタートアップで行うに比べ、大きなインパクトを与えることが可能になる。例えば、

起業家のHard Things

HBOのドラマ、シリコンバレーのようなストレスが起業家にはある(ドラマ、シリコンバレーは日本ではHuluで見ることができる)。チームのメンバーは人生の最良の期間を起業家に捧げているし、そのメンバーを雇おうとするリクルーターも接触してくるので、彼らを失う恐怖に悩まされることになる。資金調達ラウンドは毎回、生き死にの様だし、競合は起業家を常に狙っている。さらに起業家は会社や家族、そして自分自身のための時間を作るのに必死になり、くたくたになるだろう。

Hard Thingsについて掘り下げたい場合、以下の本がおすすめとのことである。

The Hard Thing About Hard Things: Building a Business When There Are No Easy Answers

The Hard Thing About Hard Things: Building a Business When There Are No Easy Answers

誰がボスかについて

起業家は自分がボスであるように思われがちだが、むしろ起業家になると従業員、顧客、パートナー、メディア、ユーザー、ステークホルダーすべてが起業家のボスとなる。皮肉なことに、起業家になるとより多くのボスを抱えることになるのである。

ここまでのまとめ

迷信 現実
金銭的なリターン 起業し株を売却するのが良い 成長している会社に入る方が可能性が高い
社会的インパク 起業することが唯一の方法である 既に確立された会社や製品があなたの仕事を何倍にも大きくする
生活 最高! ハードワーク、ストレスにあふれる
管理 起業家が命令する 皆が起業家のボスになる

それでもスタートアップを起業する理由

やらずにはいられないから、この一言に尽きるという。これは、情熱がある、才能がある、この2点によって構成される。

最後に質疑応答があったが、講義の繰り返しのような内容が多かったので省略。

Samの講義内容

続いて、Samの講義内容に移る。こちらはslideshareに資料が上がっているので、以下を合わせて参考にしたい。

何がシリコンバレーを特別なものにしているか

シリコンバレーには起業家が奇抜なアイデアを出してもそれをバカにせず本気で行えるだけの環境がある。出る杭は打たれる、といったことはない。また、スタートアップで働く人の比率が高く、他のスタートアップを思いやる文化がある。

イデアファースト

シリコンバレーの迷信の一つに、スタートアップを起業しさえすればアイデアは何でも良いというものがある。起業したのちにアイデアをピボットすればよいと。しかしながら、大きく成功したスタートアップはアイデアが第一だったし、他社のコピーではなくユニークなものだった。若い人たちは技術の最前線にいる傾向にあり、大きな波が来る前にアイデアを想像できるはずだ。

スタートアップの創業時期はある時期に集中していることに疑問を持つかもしれない。90年代後半、2000年代初頭、2009-2011年などだ。これにはインターネット、モバイル、スマートフォンといった大きな波があった。起業家のやるべきは次の大きな波が何かを予測することだ。もちろん機械学習は一つの大きな波だ。今はおもちゃのように見えることでも次の大きな波かもしれない。そうした波によってできることをやり、そのプラットフォーム上で作ることだ。

共同創業者

共同創業者がいるのが良いが、それが悪い共同創業者の場合、いない方が良い。共有できる歴史を持ち、確固たる共同創業者を持つべきだ。共同創業者に求めるのは、第1に価値観、第2に才能、第3がスキルだ。多くの人は、JavaScriptのスキルがあるからなどと逆の順番で共同創業者を選ぶ。2004年から2017年でスタートアップに対して何が変化したかという質問に答えるとするなら、現在はスタートアップに間違った理由で入る人が多いということだ。すなわち、かっこいいから、という理由で。こういう人たちは2004年には投資銀行に入っていた。スタートアップをやる理由は、アイデアがあってそれを放っておけないからだ。

少数に愛されること>多数に好かれること

素晴らしい製品を開発する事は最も重要なことの一つだ。また、製品を好きでいてくれる多数のユーザーよりも愛してくれる少数のユーザーの方が大事だ、ということを多くのスタートアップは誤解している。もちろん、多数のユーザーに愛される製品を作ることが理想だが、それは無理で、狭く深いところから広げるか、広く多くのユーザーに届け、リテンションを増やすかの道しかない。そして、少数のユーザーに愛される製品を作ることから始めるべきだ。自分の生活を見ても、本当に好きな製品は他人に勧めるだろう。これを見る指標はリテンションと使用頻度だ。成長率やユーザー数の絶対値は当初は追うべきではなく、どれだけ使っているかに注目すべきだ。しかしこうした分析も優れた製品を作るということなしにはうまくいかない。良い製品を作ること、これが最重要だ。

ユーザー獲得

最初に少数のユーザーを獲得し、ユーザーの声を聴くことが重要だ。ユーザーの声を聴くというと、使用しているユーザーに電話をかけて、「僕たちのアプリ好き?」といった感じで感想を聞くというように思われるかもしれないが、ユーザーは良い事しか言わない。むしろ、「誰かほかの人に勧めてくれたか?/それはなんで?」、「課金してくれたか?/それはなんで?」といったインタビューから特定の点に関して話をすべきだ。掘り下げないトップレベルの質問は役に立たない。 こうしたインタビューをするための最初のユーザーは直接メールを送ったり、つながりを使って頼むべきだ。そして、もし有料アプリなら実際に払わせることだ。あるいはターゲットとしている人たちに直接メールを送り使うように頼む方法も考えられる、もちろんこの段階ではコンバージョン率は2、3%と低いだろうが。ソーシャルメディアの利用、Hacker Newsへのポストなども考えられる。 AirBnBはシリアルのつまった大きな箱をジャーナリストに送り付けた、デスクの上で注目を集めるために。もっとも簡単な手段はFacebookGoogleで広告を打つことだが、おすすめできない。

会社を作ること

優れた起業家はユーザーの声をよく聞く、時にはユーザーを訪問したり、Airbnbのケースではユーザーと住んでみたりもした。 顧客と話し、ペインポイントを理解し、それを表す製品を開発し、顧客のもとに持っていき、顧客が何をするかを見るといったサイクルを繰り返す。このイテレーションを繰り返し、1回で2%改善できれば、それが1年後には全く別のものになっているだろう。 会社の期間については、簡単なもので2から3年を考えておくが、これは必ず長くなる。長いものでは10年かかるものもある。そして、10年経った頃にはもっと良い判断ができるようになっているはずだ。

従業員を雇うこと

雇用については、全てがうまくいくまではリーン的であるべきだ。これはある意味バイモーダルと言え、最初のうちはスピードボートのようにあるべきで、うまくいきだしてから空母のようになれば良い。マーケットに本当にフィットしたとき、スケールを考えるべきだ。しかし、そうなった時でも普通の人達を雇う誘惑には抵抗しよう。あなたが作ったチームは会社自身になるのだ。もし、素晴らしい人達のチームと人々が愛する製品を作れたならば、90%以上は成功したと言って良いだろう、どちらもすごく難しいことだ。良いCEOは採用活動に多くの時間を割いている。

スタートアップはハードだ。だが、あなたには自身に、チームに、投資家に気を配る義務があるし、健康や個人的な人間関係も疎かにしてはならない。そして、自身のスタートアップの最も重要なミッションを見つけるべきだ。

質疑応答

(Q.) 情熱的だがスキルにかける人物と、スキルはあるが情熱にかける人物がいたらどちらを採用するべきか?

(A.) 価値観が一番、才能が二番、特定のスキルは三番だ。情熱があればスキルはあとから学べる。

(Q.) どうしたらよいアイデアをたくさん得られるか?

(A.) 一つには練習。人々にアイデアを話し、悪い点のフィードバックをもらう。良いアイデアは一人からは生まれない。賢い人達で話している中から生まれる。生活の中に問題を見つけ、問題について話し続けるべきだ。そして、アイデアは壊れやすいものなので、すぐに不完全なものだと言って切り捨てないことだ。

(Q.) スケールアップすべきタイミングはいつか?

(A.) それは起業家が知っている。週に80時間プロダクトの事ばかり考え、ついにユーザーが気に入ってくれた。今こそ、というタイミングがわからなかった起業家を今まで見たことはない。

以上。第2回目以降の講義もまとめていこうと思う。